医学の専門家で、臨床の現場で得た経験を活かして社会保障財政の研究を行う足立泰美教授にお話を伺いました。
About Me ( ADACHI Yoshimi )
大学で教鞭を執る以前は、臨床の現場にいました。国立循環器病センター集中治療室や地域連携室をはじめ、大阪府立健康科学センターでは特定健診?特定保健指導や心のケアなどの、保健、医療、介護等の臨床現場で抱える実態や課題を見てきました。その現場の状況を改善したく、大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程に進学し、保健?医療?介護をテーマにレセプトデータ、医療?施設機関のPL、BS等の会計データ、家計の所得、消費、貯蓄等の個票データを用い、財政の視点から実証的に研究を進め、これら研究成果を現場に届けるために、和書および洋書として纏め、国際公共政策の論文博士を取得するに至っています。一方、修士課程を修了後、同大学大学院医学系研究科博士課程に進み、現場の問題を解決するために、大阪大学社会経済研究所?保健所及び消防署(泉佐野市、貝塚市)?医療機関(りんくう総合医療センター、市立貝塚病院)等の研究?行政?医療機関が連携し、ご一緒に研究をしてきました。当時、府内では他の医療機関よりも先駆けて医師の確保に向けて、りんくう総合医療センター及び市立貝塚病院で産婦人科集約化を実施していました。そこで、同医療機関を対象に、集約化によって医師不足が解消したのか、NICU等の設置によって医療技術の質が向上したのか、これら集約化によって患者の施設選択行動を妨げていないのかを、出生証明証データ、救急搬送データ、ならびにアンケートデータを用いて検証し、導出した結 果を国内外の学会報告及びジャーナルを通じて情報発信をしてきました。そして、これら成果が認められ、賞の授与とともに、医学博士の取得に至っております。
Research
Social Security Financing Next to Reality
専門は、財政、なかでも地方財政?社会保障財政です。保健?医療?介護をはじめ、結婚?出産?教育、そして雇用?年金、さらには医療機関、介 護施設や水道?下水道事業の公共インフラをテーマに、税制度、社会保障制度、公債制度のあらまし、そして国や地方の財政の仕組みを学びます。制度や財政が家計の消費や貯蓄に与える影響を明らかにし、社会保障財政における有効な政策を考えます。社会ってどうしたらよくなるの???人の性質や感情といった、その人自身に答えを見いだすのではなく、人が置かれている状況、つまり社会の構造や制度の仕組みから答えを見つけていきます。私たちが生まれる前から死ぬまで、どのような制度やきまり事があって、その制度が行われるのに、だれがどのようにお金を集めて、だれがどのようにお金を出して、だれがその制度を利用しているのか?そしてそのままの社会の仕組みであれば将来どうなるのか?社会の仕組みを知ったうえで、どうして社会はうまく機能しないのか?それを考えるのが研究です。研究で重要なことは、現場に赴き、担当者から説明を受けながら、現場の問題を一つ一つ整理し、それら問題の解決を目指してデータを用いて検証し、導出された結果が果たして現場をとらえているかを、再び現場にいき、一緒に、社会を今よりもよくするためにはどうしたら有効な政策に繋がるかを探っていくことです。そこには、研究は、常に現実と隣り合わせであることです。
これはゼミでも心がけています。何か政策提案するときには、現場の声に耳を傾けるようにしています。例えば、観光政策です。神戸市港湾局と関西にある大学のゼミ生が集いクルーズに乗船しながら、観光政策を聞く企画が行われています。また、COVID-19禍で、現場に赴くことが難しい状況であったとしても、人との繋がりからオンラインで現場の声を聴く機会も頂いていきました。



KONAN’s Value
甲南大学が学生や社会に提供できる価値は、まさに、研究を通して教育及び社会に貢献することにあります。大学で教鞭を執る先生方は皆、一人ひとりが専門を持ち、研究という成果を出し、これら成果を教育という形で情報発信しています。そのため、各教員が最大限能力を発揮し、教育、研究、社会貢献による相乗効果が生み出される環境の構築が重要になります。


その一つに、産官学連携があります。例えば、本学で進めています加古川プロジェクト、社会実装プロジェクト、地方財政ならびにゼミで す。加古川プロジェクトでは、行政および企業が問題を提起し、その問題の解決を目指してゼミ活動を行うプロジェクトになります。社会実 装プロジェクトでは、産官学連携で実現した研究の発表の場、もしくは産官学連携に繋がるネットワークの場になります。これらだけではあ りません。講義やゼミでも現場で活躍している方々と連携を図っています。例えば、地方財政です。地方財政では、国や地方公共団体でご活 躍の皆様をはじめ、介護施設やこども園を運営している施設経営者の方や、新たにビジネスを立ち上げている起業家の皆様をお招きして、ど うしたら社会はよくなるのか、各専門の立場から講義をしてもらっています。2回生、3回生そして4回生のゼミでは、神戸市、中小企業投資育 成会社、そして企業の皆様と連携して、ゼミ生自身が現場に赴き実態を見ながら何が問題かを考え、解決を見出していくPBL(問題解決型学 習)型のゼミを行っています。これら活動は共通して、研究を通して、教育および社会への寄与を目指して頑張っています。


Private
大学から飛び出し、色々なところで先生をしています。例えば、財務省の研修です。財務省 では3年勤務したら半年間の研修期間があります。そこでは皆さんが学んでいるマクロ経 済、ミクロ経済、統計学等の国?地方公共団体に関わる学問を学び、研究を行います。その 先生をしています。また、地方公共団体、経済界、議員、さらにはCOVID-19 禍でまさに第 一線で活躍している保健師の皆様とともに、社会をよくするにはどうしたらいいかを考え、 アドバイザーとして意見を述べたり、講義をしています。

Profile

経済学部 教授
足立 泰美
ADACHI Yoshimi
専門領域
国際公共政策及び医学
キャリア
大阪大学 医学系研究科 社会環境医学専攻 公衆衛生学 博士「医学」取得
大阪大学 国際公共政策研究科 比較公共政策研究科 博士「国際公共政策」取得
大阪大学医学部、大阪大学法学部、関西学院大学経済学部、関?学院大学法学部、大阪 公立大学医学部等で教鞭を執る。
所属学会
日本経済学会
日本財政学会理事
日本地方財政学会常任理事
社会貢献
内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務 省「公営企業の経営健全化等に関する調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審 議会」委員を多数歴任